研究セミナーレポート②
研究セミナーレポート②
世界の富裕層を魅了する「ラグジュアリーな旅」とは?
旅行作家 山口 由美氏
講演テーマ「世界の富裕層は旅に何を求めているか」
“ラグジュアリーな旅”というと、最高級のホテルに泊まりゆったりと寛ぐことをイメージする日本人は多い。しかし今、世界の富裕層はさまざまな価値観で休日を楽しんでいる。“壮大な自然と共存する旅”も、選択肢として浮上してきた。グローバル時代に、ローカルの魅力を武器にする方法を探る。
野生の世界へ、ようこそ!
たとえば、メディアで世界一のホテルに選ばれたこともある南アフリカのサファリロッジ・シンギータでは、ヨハネスブルグの空港からヘリコプターに乗って行くと、ガイドが迎えに来てくれる。彼らの最初の挨拶は、「野生の世界にようこそ!」。ここから、プライベート・サファリが始まる。
「サファリ」は、スワヒリ語で「旅」。ラグジュアリーとワイルドが同居する本物の自然のなかで過ごすことが、一番の目的だ。ただしこの旅では、「ラグジュアリー=手厚くもてなされた、不快感のないもの」ではない。野生の世界を満喫するアクティビティに参加するときには、草むらで用を足すことも誰もが当たり前として受け入れる。そんな不便さのなかにあっても唯一無二の経験ができるのであれば、そこには価値がありラグジュアリーなのだ。
遠くて不便を「ワクワクする冒険」に変える
インドネシアのスンバ島にあるニヒ・スンバは、広大な敷地を誇る。宿泊者たちは、ホテルからスパまでの徒歩1時間半を、あえてトレッキングとして楽しむ。この、「あえて」というのが人気の理由。うっそうとした緑のなかを歩き、途中で村の人たちと出会い交流することで、発見が増える。旅人たちは、そんな冒険を求めてやってくる。
スパに到着すると、そこはパラダイス。疲れ切った足を丁寧に洗い流してくれる心地よさは、極上だという。その後は、全身トリートメントと地元の食材を活かしたランチが待っている。アメリカの旅行雑誌で2016年、17年に世界一と賞賛されたホテルは、何が“最上級のサービス”であるのかを熟知している。
ホテル選びの条件としてのサステナビリティ
世界の富裕層の多くは、サステナビリティに取り組んでいないホテルには泊まりたくないと考えているという。特にアメリカ人にはその傾向が強く、ホームページにサステナビリティへの取組みが掲載されていないと、宿泊しないことも多々ある。また、食事はシンプルに。フルコースではなく、前菜、メイン、デザートで終わることがほとんど。贅沢なものをたくさん食べるのではなく、明日のアクティビティに備えて体調を整えるほうが大切という考え方が主流だ。
なかには社会貢献のための財団を所有し、活動しているホテルもある。たとえば、「安全な水の提供」、「マラリア専門クリニックの運営」、「学校給食の提供」など。顧客である富裕層に活動内容を直接伝える場を設けて寄付を募るなど、地元と富裕層を結びつけ、成果を出している事例もある。圧倒的なパワーを持つ富裕層に選ばれる旅とはどのようなものか、世界標準の視点でもう一度考えたい。