研究セミナーレポート③

研究セミナーレポート③

第36回 Jウエルネス研究セミナー(2024/11/26)

青森の医療法人がホテルで提供するウェルネス体験(Relabo Medical Spa & Stay)

 

丹野 智宙氏/株式会社城ヶ倉観光代表取締役、一般社団法人慈恵会理事長

真野 俊樹氏/中央大学大学院戦略経営 研究科教授、多摩大学大学院特任教、Jウエルネス振興会理事

 

■青森の医療法人がホテルで提供するウェルネス体験(Relabo Medical Spa & Stay)

丹野 智宙理事長

 

人口減少が加速する青森で、医療や介護、観光業を持続させるために

今回はウェルネスについて、医療、温泉旅館業、経営のそれぞれの視点で皆さんと共有したい。

医師であった私の先々代は、患者の健康のために八甲田山で温泉を開湯したが、その場所があまりにも寒冷で療養には適していなかったため、後に旅館業やホテル業を始めた。これが、医療と温泉旅館業を営むきっかけだった。

2018年に、私はハーバードビジネススクールのOPMプログラムに参加し、「ウェルネスとは何か」、「なぜ必要か」について学び、その結果、「医療」と「観光」の統合でウェルネスのビジネスが実現できると考えた。青森県の人口は2000年に150万人を超えていたが、現在は120万人、25年後には75万人にまで減少すると予測されている。この人口減少の危機に立ち向かうために、私たちはウェルネスにヒントを求めた。

 

ウェルネスを提供できるホテルは、逆風でも強い

その頃、JR東日本グループが「変革2027」の戦略の中で、地方経済を豊かにする取り組みを発表した。これは、“青森県の人口減少による経済縮小と魅力低下”という負のスパイラルを食い止めるためだった。そこで私たちはJR東日本グループとともに、青森県の未来に向けて価値創造と地域共創を進めようと考えた。目指すのは、①地元雇用の創出、②高価格設定、③国内外の旅行者からの収益を地元に還元すること。

その後、青森駅の5代目ビルディングがリニューアルされることとなり、駅の真上にJR東日本グループ初の民間委託でウェルネスホテルが昨年7月に誕生し、私たちが運営を受け持つことになった。

私たちはコロナ禍にあっても1000年の歴史を誇る蔦温泉の営業を続けたことで、「感染症のリスクを上回る価値」を認めてもらえれば、多くの人が旅を続けると実感した。たとえ100年以内に再び感染症が発生したとしても、ウェルネスを提供できるホテルであれば強いと確信している。

 

単価アップと地元雇用創出

私たちのメディカルグループでは、ウェルネスホテルの運営戦略として、お客様の消費額を増やすことを意識している。ウェルネスの提供で価値を向上させ、その結果、支払意志額が増大すると考えており、実際に近隣のホテルよりも宿泊費を約8千円高く設定してもお客様を獲得できている。

経営としては、地元雇用によって効率的に(紹介料無く)人材を確保し、ウェルネスを提供することで高いリターンを得ることが可能だと考えている。これもまた、私たちの戦略の一つだ。観光と医療を組み合わせることは非常に難しいが、私たちは40名の医師を中心に100名体制でウェルネスを提供している。また、このように他社が参入できないポジションを確立することが長期的な戦略であり、ウェルネスはその重要な要素となっている。

 

組織文化もウェルネスで醸成

文化の違いを乗り越え、組織を効果的にマネジメントすることは非常に重要だ。ウェルネスは、学習との親和性が非常に高いと思う。2018年に、同じ目的意識を持つ係長職に対して学習を奨励した結果、看護師がヨガトレーナーやセラピストを兼任するなど、医療従事者が他の役割を担える体制が実現した。

恵会病院は、人の命と心に寄り添い、わずかな可能性も信じて治療に取り組む病院だ。テクノロジーを活用し、医療、観光業、医師、ソムリエが協力してウェルネスを推進し、社会を良くするイノベーションを目指している。

 

Q&A

どのような検査が提供されていますか?

日本の健康診断で受けられない検査(例: 自律神経検査、オリゴスキャン、有害金属検査など)。また、更年期に関連した甲状腺検査も行っています。

更年期検査について詳しく教えてください。

女性の更年期症状が多いが診断を受ける人は少ないため、旅先で気軽に甲状腺検査を受けられるようなサービスを提供しています。

医療とウェルネスの違いは何ですか?

医療は検査や診察が中心であり、ウェルネスは義務感ではなく選択肢として提供されるべきだと考えています。

海外のお客様の滞在状況はどうですか?

海外からのお客様は長期(3泊以上)の滞在が多く、ウェルネスを目的としたメディカルサービスを選ぶ方が増えています。

施設でのサービス提供方法について教えてください。

スパやヨガのサービスに加え、カウンセリングや検査は強制ではなく、選択肢として提供しています。

 

■医療とウェルネスの今とこれから

真野 俊樹氏

医療は病気や怪我の治療・予防を目的とし、ウェルネスは心身のバランスや幸福感を追求する概念で、両者は相互補完の関係にある。WHOの健康の定義である「病気は強弱のない状態でなく身体的・精神的・社会的に良好な状態」を基礎に、ウェルネスは幸福を追求するプロセスであり、ウェルビーイングは身体、精神、感情のバランスによる全体的な幸福とされている。これらの概念は重なり合い、健康と心の問題や社会的課題が一体化しつつある。

さらに、医療AIやテクノロジーの進化により、健康状態を個人が管理する時代が到来している。遠隔医療や健康トラッキングデバイス、フィットネスなどが普及し、医療とウェルネスの境界が曖昧になる中、予防医療や健康経営が重要視されている。

また、地域コミュニティを活用した健康寿命の延伸や、持続可能な健康モデルの構築も進められている。個人の健康ニーズに応じたケアや、バーチャルケアが普及することで、医療やウェルネスがさらに身近な健康文化になることが期待されている。