研究セミナーレポート④第37回「2024年Jウェルネス総括 関連行政からの情報共有と国内ウェルネス産業」年間の振り返り
研究セミナーレポート④第37回「2024年Jウェルネス総括 関連行政からの情報共有と国内ウェルネス産業」年間の振り返りと交流会
ゲスト登壇者:経済産業省、林野庁、観光庁、スポーツ庁、環境省から担当官
「女性特有の健康課題による経済損失は年間3.4兆円と試算」
健康経営を推進する上で、女性の健康に配慮をして重点的に対応する必要がある。働く女性が増えている現在、ホルモンの影響を抱えながらも仕事を続け、妊娠出産をしている。乳癌や子宮癌のように女性特有の疾患は、若いうちからも発生しうる。しかし、多くの女性が月経や更年期障害で仕事や生活に支障をきたしていることが、認知されていない。このような悩みに対応すべく、職場の理解や対策が必要不可欠。2024年2月に女性特有の健康課題(月経随伴、更年期症状、婦人科癌、不妊治療)に取り組まない場合の経済損失が年間3.4兆円と試算された。経済産業省では、引き続き女性の健康施策として効果検証プロジェクトを推進している。各社の取り組みを統一指標で効果を検証していく。(経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 山崎牧子氏)
「山村と企業をつなぐ森林サービス産業の創出を」
森林空間での様々な体験プログラムに取り組み、森林サービス産業を推進している。森林をフル活用することで、山村地域が活性化し、雇用や収入が生まれ、森林整備へと繋がる。自治体と地域事業者が連携した森林サービス産業推進地域は、現在全国に55地域ある。健康経営に取り組む企業を対象とと考えている。森林サービスを通じて、心と体の健康づくりやコミュニケーション活性化のチームビルディングに活用することができる。また、エンゲージメントの向上や早期離職率低下を目的として、若手の研修にも取り入れられている。社員のウェルビーイングになる一方で地域貢献にもなっている。林野庁では、山村と企業をつなぐフォーラムを設けて、推進地域と企業が出会う場を提供している。(林野庁 森林整備部森林利用課 櫻井知氏)
「第2のふるさとづくりで観光資源の活用と健康促進に」
2024年上半期の訪日外国人旅行消費額は、10年前と比べて3兆9,102億円で4倍以上になっている。訪日外国人旅行者の6人分が、日本人一人当たりの年間消費額135万円に当たる。 観光立国推進基本計画では、①持続可能な観光地域づくり戦略、②インバウンド回復戦略、③国内交流拡大戦略を重要な3つの柱としている。この方針に沿って「第2のふるさとづくり」と「ワーケーション」の推進をしている。第2のふるさとプロジェクトは、何度も地域に通う旅、帰る旅として地域の観光資源に触れ、地元と交流をもち、地域へ愛着が生まれ、さらに移住へ繋がるプロセスを促進している。旅行者が自然環境の保護と再生を地元の方と一緒に行動することで、資源が守り続けられる。観光が持続的な観光資源の活用から地域活性に繋がり、人々の心身の健康を促進する取り組みの一つとなっている。 (観光庁 観光地域振興部 観光資源課 白須渓子氏)
「30代40代女性の運動の実施率が特に低い」
国民のスポーツ実施率として、週に1回以上運動している人の割合は今現在52%。特に仕事や家事や育児に忙しくお金もかけられない理由から30代40代の女性の実施率が低い。スポーツ庁は、「する」「見る」「支える」を組み合わせてスポーツ参画状況を改善しウェルビーイングに繋げたい。スポーツ習慣化に向けて自治体が健康スポーツ事業の展開をするための補助金事業や、自治体と企業向けにスポーツ実施率を高めるスポーツインライフ推進プロジェクトに取り組んでいる。 (スポーツ庁 健康スポーツ課 中山正剛氏)
「温泉入浴、周辺の自然、歴史、文化、食、地元との交流で元気に」
環境省は、温泉地活性化「新・湯治」に取り組んでおり、全国で効果測定プロジェクトを行っている。方針としては、古くから温泉地で営まれた病気を治すための「湯治」を現代に合わせて温泉地の役割を見直すこと。具体的には、通常の入浴に加え、周辺の自然、歴史、文化、食等を地元の方との交流を通して心身ともに元気になること。長期滞在して入浴病気や怪我を治療する元々の湯治に加え、地域資源を掛け合わせて新しい滞在を目指している。チーム「新・湯治」に
は、453以上の団体個人が参加し賛同している。温泉地滞在効果の調査では、アクティビティとの組み合わせにより心身への変化があった、温泉地に訪れることで心身へのいい影響が現れたという結果が得られた。今後も温泉地の滞在効果を明らかにしていきたい。(環境省 自然環境局 自然環境整備課 温泉地保護利用推進室 五反田豊氏)
【江渕・まとめ】
この1年の取り組みを振り返ると
SDGsやエコ、自然といった世界の潮流と、テクノロジーやAI、長寿への科学技術、地域資源を活用したオープンイノベーション、特に医療とウェルネスの連携が注目されている。その流れの中で主役は生活者であるという認識が益々強まっているように思う。行政や企業も生活者のニーズに応えるため、従来の「送り手の論理」から転換している、そのために異業種や地域との連携が進み、生活者の視点で最適を提供する方向へと向かってきているようだ。
2025年に向けて
現在、世界のウェルネス市場は6.3兆ドルで、2028年までに9兆ドルに成長すると予測されている。特にウェルネス不動産は、メンタルウェルネス、ツーリズム、温泉鉱泉、健康的な食事などの要素から伸びると言われている。日本が発信すべきウェルネスの魅力とは、伝統と先端技術が共存し、長寿までの豊かな時間を充実させる価値があるということ。キーワードとして「いきがい」「つながり」「養生」「おもてなし」があり、生活者に個別化最適化された希少な体験を提供することが求められている。
今後の活動について
これまで地域、女性の健康、医療、テクノロジー、ウェルネス分野で活動を行い、参加者は500人を超える。来年はアクティブメンバーを100名に増やしていきたい。また、ウェルネス市場は2028年に9兆ドルに達すると予測され、日本のウエルネス産業も拡大できるはず。ここに役立っていければと考えている。具体的には、日本独自のウェルネス文化の国際発信、科学的根拠に基づくウェルネスの価値強化。地域活性化やグローバルウェルネス市場との連携、次世代への価値観の普及も進め、最終的には日本のウエルネス「Jウェルネス」が国内外で認知されていくことを目指していきたい。