【事例研究|004】日本人の中にある懐かしい価値を新しい価値に

事例

「スイデンテラス」が山形県庄内平野にオープンしたのは2018年9月。全143室の木造ホテルとして国内最大級の規模だ。建築家坂茂氏が手掛けたという木のぬくもりとスタイリッシュが共存するデザイン。「晴耕雨読の時を過ごす」がコンセプトという。サウナ、フィットネス、天然温泉、2000冊規模のライブラリ、地酒バーを配す。宿泊客は6割が関東からで、家族旅行やワーケーションと目的は様々。子供連れには隣接する全天候型児童施設KIDS DOOM SORAIが人気という。運営は、ヤマガタデザイン(株)。街づくり推進室長 長岡太郎氏は、これからも、出羽三山に代表される豊かな自然、庄内平野、山伏の修行や歴史を背景にした精神文化、デザイン・アートの文化、ユネスコ食文化創造都市の豊かな食文化、そしてサイエンスパークの先端科学技術を、もっと活用して独自のウエルネスツーリズムを創っていきたいと語った。同社は現在、教育、農業、人材、観光の分野で相乗効果を生む8つの事業を展開している。この取り組みは地方創生モデルの先進事例として全国から注目されている。
(2022年7月27日 第14回Jウエルネス研究セミナーより/ヤマガタデザイン(株)街づくり推進室 室長 長岡太郎氏)

考察

ウエルネスツーリズムの専門家が、注目の施設があると知らせてくれてずっと興味を持っていた。最初に見たホテルの写真は、水田に浮かぶように建つ木造建築。眠っていたふる里の情景を呼び覚すようで、「懐かしさ」を感じる佇まいだった。田んぼの水面は季節、時間、天候、空模様によって様々な顔を見せるという。正にスイデンテラスに「帰っておいで」と誘われているよう。これまでの観光の常識で、ホテルを建てるのに田んぼの中を選んだだろうか。名山や綺麗な海を臨み、朝日、夕日を愉しむロケーションこそが観光ホテルの立地条件ではなかったか。水田という農村の暮らしの中の景色に目を向け美しさを引き出し、そこに共感し訪れる人たちのマーケットがあったのだ。大きな期待や、希望を感じる。地域にあるモノに着目してオリジナルを創ってみせたのだ。「懐かしさ」が「新しい」価値を生んだ。