【Column】「Jウエルネス」が街や暮らしを変える|Ep.02

ウエルネス・トランスフォーメーション(WX)の時代にさらなる価値を

〔起点〕Jウエルネスこそが世界が求めるポスト・ウエルネス⁈

 今年22年5月の世界経済フォーラムで、「旅行・観光開発ランキング」において初めて日本が一位に選ばれました。日本の安全・清潔、豊かな自然や文化が世界に注目されたのです。
 いったい日本の魅力とは何でしょう。食や温泉の伝統文化、四季のある自然、なにより、安全で清潔な街、日本人の優しさ、勤勉さ、交通機関の正確さでしょうか。あるいは、日本の美容や健康、長寿への憧れ?日本が大好きで何度も訪れて各地を旅しているある家族は、先端テクノロジーと伝統文化、高層ビルの都市と長閑な山村風景とが共存する多様さが魅力と指摘しました。
 2018年5月、大分県の別府市で開催された「世界温泉地サミット」には世界各国からウエルネスや温泉の専門家や研究者が集結しました。ここでも、日本の魅力の一端が語られました。集まった専門家たちが、口々に「ウエルネスの次(ポスト・ウエルネス)のヒントは日本にある」と語ったのです。消費が精神的価値重視に向かっている時代に、その受け皿として温泉地が期待され、また、日本にも関心が高まっているというのです。どうやら日本には、ウエルネスの道標があるようです。
その会議のために来日したイタリアのアバノ・モンテグロット温泉ホテル協会の元会長マッシモ・サビオン氏※1にインタビューを試みました。「日本の魅力は?」の問いに、マッシモ氏は大分県竹田の温泉に滞在中に出会った畳作りや、石川県山中温泉で機織りを見たときの感動を語ってくれました。半日も見とれてしまったと。温泉地のそぞろ歩き、地域の人との心休まるふれあい。50回以上も日本に訪れた経験からのこそ言葉でしょう。ところがインタビューの最後に「日本の本当の豊かさに日本人が気づいていない」と苦言を呈したのです。
 もう一人、翌年来日したドイツのフライブルグ大学医学部教授ヨハネス・ナウマン氏※2は、まず、日本の街の清潔さ、交通機関の正確さ、人々の礼儀正しさの素晴らしさに触れた後、食事や温泉がどこも個性的で温泉地には心の健康保養の可能性を感じたと語ってくれました。何より雪景色を眺めながら浸かった川湯での自然の一部となったような体験は忘れられないと。
 彼らが魅力と見ているもの、またその先にある「ポスト・ウエルネス」とは、我々の目指すべき「Jウエルネス」の姿ではないでしょうか。海外からの日本への期待は日本流のこうしたアナログの中にもあるように思えてなりません。それは、訪れた人を包み込む四季のある自然、多様な地形、街並み、情景、そこで暮らす人々。そして、相手の気持ちや考えを察し心遣いでもてなすウエルネスの空間、時間です。いわば、日本が持つパーソナライズの力だと考えました。

江渕 敦

※1:マッシモ・サビオン氏(Massimo Sabbion)
アバノ・モンテグロット温泉ホテル協会元会長、元アバノ市副市長、プレジデントホテル・テルメ元オーナー。現在は、丘隆地に心身の健康を回復できるB&Bを開業。ポスト・ウエルネスとしての温泉と自然の力の可能性を模索する。(2018年インタビュー当時資料)
※2:ヨハネス・ナウマン氏(Prof.Dr.med.JohannesNaumann)
ドイツフライブルク大学医学部教授/バートクロツィンゲン市VITA CLASSICAクリニック所長(専門分野 保養地医学全般、温泉療法)。7年間温泉医学の研究に取り組んでいる。1月27日来日、岡山県湯原温泉、鳥取県関金温泉、熊本県菊池温泉、大分県長湯温泉・別府温泉、鹿児島県霧島温泉などを訪れた。第85回健康と温泉フォーラム月例会で講演「グローバルサーマリズム~日独温泉共同研究の挑戦」。(2019年インタビュー当時資料)