研究セミナーレポート⑥第39回【地域とウエルネス~「さとゆめ」の目指すふるさと】

第39回研究セミナー 【地域とウエルネス~「さとゆめ」の目指すふるさと】
株式会社さとゆめ 
代表取締役社長 嶋田 俊平氏

私は学生時代、京都市山間地域で鴨川の源流でもある雲ケ畑によく通っていました。そこで住人たちに可愛がってもらい、地域というものに魅了されました。しかし林業の村でも山を売る人たちが増え、豊かな自然の景色がどんどん失われていきました。私は幼少期から父親が転勤族で、ふるさとがないことにコンプレックスを抱いて育ったため、初めてふるさとと思える大切な地域が壊されていくのに何もできない自分の非力さを感じました。大学院卒業後は、ふるさとの美しい景色や暮らしを守る力になりたいという思いから、街づくりをするコンサルタント会社に9年間勤め、2013年に、ふるさとの夢を形にという理念を掲げて「さとゆめ」を創業し、そこから生まれた事業6社ほどの代表をしております。

現在は、日本中でだいたい50か所ぐらいの地域の支援をしています。これまでの計画、戦略、調査に特化したコンサルタント会社ではなく、地域事業に売上、利益、雇用そして、賑わいを生み出すところまで徹底的にサポートをしたい思いで創ったのが「さとゆめ」です。そして、名もなき土地の風景や暮らしを守ることにこだわり、我々のシンボル的地域のひとつになったのが山梨県の小菅村です。

小菅村は、関東平野を流れる多摩川の源流部にあり、わずか700人ほどの集落で人口減少と存続の危機にありました。この地域に通い続け、村長の熱意に共感し道の駅を造り、人口を維持するためにDMOをやれるだけやってきました。例えば、村のことを知ってもらうウェブサイトを作ったり、村にポイントカードシステムを導入したり、ベンチャー企業5社を誘致したり。できることすべてに最善を尽くした結果、未来は変えられるという実感をもてました。しかし観光客数が2倍に増えた一方で、村の課題全部が解決したわけではありませんでした。そこで、地域に雇用と収入を生む宿泊施設の計画を立ち上げました。村にある100件の空き家を1軒ずつ客室に変えたらどうかという私の提案に、村の関係者が「それ面白いね」と賛同してくださり、2019年8月にNIPPNIA小菅源流の村という古民家ホテルを開業することができました。運営会社は私が代表を務め、村の方々がガイドや送迎、清掃などを手伝ってくれています。村人たちが観光客と交流をもつことにより、「お帰り、ただいま」の関係ができて長期滞在やリピート率向上に繋がり、海外からのお客様も増えてきています。

次に、なぜ「さとゆめ」からたくさんの事業が生まれるのかをご紹介します。小菅村のホテルは、村に通い始めてから開業までに6年かかっています。この6年に意味があります。時間をかけたからこそ700人ほどの村がひとつになり、ホテルが運営できるようになったのです。地域に住む方々と時間をかけて信頼関係を深め、人々の思いに耳を傾け、企画、申請も一緒に行い、お金集めをするところからスタートしました。利益が出ないことでもやるしかないNPOフェーズから、補助金や協賛金が集まり稼働に見合った対価を得られるようになるとコンサルフェーズに移ります。このフェーズで、事業計画と実証を重ね、地域に売上、利益、雇用、賑わいを継続的に生み出し続ける仕組みを事業化します。「さとゆめ」が地域で事業を創っていく際に大切にしていることは、「地域創りは計画ではなく、物語だ」ということです。すべてが計画通りにうまくは行かない。地域の物語だからこそ、数々の難関を乗り越え、その先にある成功を掴むことができます。地域を主語にして地域の看板を掲げることで、小菅村のホテルのように地元から海外の幅広いファンにまで応援してもらい、地域を支えてもらえるようになるのです。空き家をホテルに変えたように、地域の課題解決をワクワクするような未来像として提案し、一緒に事業化を進めていくことで求心力が生まれ、人もお金も集まってくると実感しています。

事業に必要な3要素は、計画、資金、人材です。これからの地方創生は、人生をかけてでもやりたいという熱意をもった人が、リアリティをもって事業計画を作り、そこへ投資して実行しなければ広がりません。なかでも、人口減少の今、人材は最も希少価値があり重要です。まずは人材を見つけて、または育てて、一緒に資金を調達して計画を作って運営し、事業化を目指さなければならないと思っています。これを我々は、「計画起点から人起点へ」と言っています。
我々「さとゆめ」はこれからも、ふるさとのゆめを形にするために徹底的にサポートすべく、地域とともに全力で走り続けます。