【Column】「Jウエルネス」が街や暮らしを変える|Ep.05

既存の健康・美容がウエルネス産業へ生まれ変わる

世界のウエルネス産業の枠組みには、健康的な食事、栄養とダイエット、トイレタリー用品、ビューティ&アンチエイジングや、フィットネス、代替療法などが含まれ大きな市場を形成してきました。今後は、特に、ツーリズムやメンタルヘルス、職場や住環境、街づくりの分野における成長が期待されています。
世界のウエルネス産業の中でも早期に拡大し大きな領域を占める健康と美容分野は、日本でも1990年頃から健康・美容志向の高まりを反映して一気に拡大しました。2000年に入り、健康食品市場は1兆円を突破し、フィットネスやエステティックは4000億円超市場にというように各産業は急成長していきました。より信頼を得るため安全性と機能性を追求し、エビデンスを備え専門性を高めようとしました。一方で、ワンストップのサービス提供を狙い異業種間での連携が盛んになっていきました。これは新たな層の獲得に役立ちました。さらに、医療と連携し、サービスの根拠を強固にするチャレンジも行われたのです。この背景には、世界での補完代替医療や統合医療の台頭や富裕層向け有名リゾートのディスティネーションスパの登場があったように思います。一人の人の健康を全体像で見て寄り添おうとするサービスは、当時の日本からは画期的でした。国内各地で登場したメディカルスパも、複数の専門家が協働する米国の統合医療クリニックや、オプティマムヘルスという考え方への憧れもあったに違いありません。
2015年に、国が「健康日本21」運動の生活習慣病予防を目的に行った「宿泊型新保健指導(スマート・ライフ・ステイ)」の事業は、医療・健康分野の専門家たちの協働モデルとして注目され、健康・美容サービスの理想の姿として関係者の間では未だに話題に上ります。ホテル、旅館や観光資源を活用し、医師、保健師、管理栄養士、理学療法士、健康運動指導士が多職種連携して対象者の行動変容を促すことを目指しました。
世界のウエルネス産業のバブルチャート図(図)に目を凝らすと、各産業を互いに点線で繋いでいることに気づきます。このことは各々のビジネスが互いに有機的に繋がり、化学反応し、ウエルネス産業全体が成長していくことを示唆しているのでしょう。日本でも、これまでの健康、美容分野にとどまらず、ツーリズム、温泉、不動産、職場のウエルネス、メンタルヘルス、医療といった分野とも、積極的に交わっていくべきなのでしょう。一人ひとりの心身の健康や最適な状態をつくることを目的に、互いに連携を深めることで、日本のウエルネスサービスの新たな姿が見えてくるはずです。
行政においても、次世代ヘルスケア産業協議会、健康経営などで、新産業創出のため省庁が垣根を越える取り組みが始まっています。厚生労働省の「健康日本21」、経済産業省の「健康経営」、「生涯現役社会」、林野庁の「森林サービス産業」、環境省の「新・湯治」、観光庁の「第2のふるさとプロジェクト」、「高付加価値インバウンド」「ワーケーション」などを背景に、ウエルネスをテーマにした都市と地域を結ぶ新しいビジネスが生まれることが期待されています。

江渕 敦