【第49回Jウエルネス研究セミナーレポート】「2026年の国内ウエルネス産業を占う~関連分野行政の取り組み」

第49回Jウエルネス研究セミナー報告  

行政が語った「ウェルネスの現在地」~スポーツ×温泉×森×旅の接続点
今回の月例会では、4省庁から最新の取り組みが共有された。スポーツ庁は制度改正と「実施率の壁」、環境省は新湯治の効果測定の次段階、林野庁は「森業」という新しい地域産業の立て付け、観光庁は関係人口を軸にした旅の再設計。それぞれの領域は違うが、通底するキーワードは「ウェルビーイング」「行動変容」「地域との関係づくり」だった。

スポーツ庁:第4期計画へ      “やりたいのにできない”層をどう動かすか
スポーツ庁からは、スポーツ基本法の改正と、第4期スポーツ基本計画の策定状況が語られた。改正の背景には、長寿社会・共生社会・デジタル化など環境変化があり、条文上も「ウェルビーイング(生きがい・幸福)」の色合いがより濃くなったという。

一方で現実は厳しい。週1回以上のスポーツ実施率は目標7割に対し、直近は52.5%。特に課題として挙げられたのが、20〜50代の働く世代、とりわけ女性の低さだ。阻害要因として「仕事が忙しい」の割合が高く、やりたい気持ち(希望率)とのギャップが大きい。解の方向性として示されたのは「職場での取組」を増やすこと。現状、企業で運動・スポーツ推進に取り組む割合は2割弱だが、取り組みがある職場では実施率が7割を超え、ウェルビーイングも高まる傾向があるという。さらに“社会人になる手前”の大学生期に実施率が落ちる点を踏まえ、大学→社会人へと習慣をつなぐアプローチも重視していく方針が示された。(発表は、スポーツ庁 健康スポーツ課 専門職 中山 正剛氏)

環境省:新・湯治は「主観」から「客観」へ—ウェアラブルで効果を測る環境省は、新・湯治を「温泉入浴+自然・歴史文化・食・交流を含む現代型の過ごし方」と位置づけ、平成29年から推進してきた流れを確認。その上で、最大のテーマとして「効果の見える化」を掲げた。これまでの全国調査はアンケート中心で、訪問者の9割以上が“癒された・リフレッシュできた”と回答するなど、主観的効果は強く出ている。しかし次の段階として、令和7年度からはスマートリング等を用い、睡眠・運動・心拍などの客観データで検証を開始。大分県内の温泉地で、滞在前後を比較した結果、QOL、運動スコア、睡眠スコアが滞在中に改善し、特に睡眠時間の増加が確認されたという。一方、新・湯治の柱である「アクティビティ(今回は卓球)」の有無については、サンプル数や他活動の混入などの影響もあり、有意差が明確に出なかった。課題は率直に共有され、来年度以降はサンプル増、設計の工夫、スコア算出の透明性などを詰めていく方針が示された。要は、温泉地の価値を“物語”だけでなく“データ”でも語れる土台づくりが始まった、ということだ。(発表は 環境省自然環境局自然環境整備課温泉地保護利用推進室温泉保護係長 今別府達也氏)

林野庁:「森業」—木材以外の森の価値で、山村に所得と交流を生む
林野庁からは、新しい取組として「森業」が紹介された。山村地域は人口減少・高齢化が先行し、無人化した集落における森林の約7割が放置されている。放置は獣害や環境リスクにつながる一方、都市住民の約半数は「過去1年に森林へ行っていない」。しかし興味はある。散策、ワーケーション、ヨガ等を「やってみたい」層は約8割にのぼるという。さらに企業側でも、脱炭素・自然資本開示の流れを背景に、森づくり活動やJクレジット活用が増加。こうした需要を地域の雇用・所得・交流につなげるのが「森業」であり、森林浴、トレイルライド、キャンプ、環境学習、企業研修、企業の森づくりなどを総合的に束ねて推進する考え方だ。森業ポータルやネットワークも整備され、企業研修(人的資本経営)と森を結ぶフォーラム開催も告知され

た。森は“癒し”にとどまらず、地域経済や人の流れを組み立て直す視点として位置づけられていることが、今回の説明からうかがえた。(発表は 農林水産省林野庁森林整備部森林利用課山村振興 · 緑化推進室 山村振興企画班 課長補佐 劔持沙織氏)

 

観光庁:「第二のふるさとづくり」—観光から“関係”へ、旅を作り直す

観光庁は、インバウンドが総数としては過去最高水準で推移する一方、中国市場は変動要因があることを示しつつ、「国内旅行需要は横ばい」という現状認識を共有した。そこで鍵になるのが、新たな交流市場の創出である。

提示されたのが「第二のふるさとづくり」だ。観光地を巡る“お客様の旅”から、地域に何度も通い、暮らしに入り、仲間になる旅へ。旅前(勉強会・交流)→旅中(プログラム参加)→旅後(振り返り・再来訪イベント)の再来訪へつながるプロセスを循環させ、関係人口を創出するモデルで、これまで複数地域の実証が進んでいる。復興文脈の地域や、離島医療人材など課題テーマと結びつけた事例も紹介され、「観光」と「社会課題」を接続する方向性がはっきりした。

(発表は 観光庁参事官(旅行振興) 付 旅行業務適正化指導室専門官 宮原健氏)

Jウエルネス視点のコメント
今回の4省庁の発信を通して浮かび上がるのは、日本の政策が「健康」「観光」「自然」「スポーツ」を個別施策としてではなく、生活全体の再設計として捉え直し始めているという兆しである。スポーツ庁は「実施率」を追うだけでなく、働く世代や女性の生活構造に目を向け、日常に入り込む運動の設計へと舵を切りつつある。環境省の新湯治は、温泉を単なる入浴体験から、自然・食・交流を含む心身回復の“場”へと拡張し、主観的満足からデータに基づく検証へと進もうとしている。 林野庁が掲げる森業は、森林を資源として「使う」発想から、人と森の関係を育て、地域の雇用と誇りを生み出す産業へと位置づけ直す試みだ。そして観光庁の「第二のふるさとづくり」は、旅を消費行動から関係形成へと転換し、来訪者を“仲間”として迎え入れる構造を描いている。ウエルネスは、これらを横断する概念として、日本の養生文化――無理をせず、続けすぎず、身体や環境の声を聴く態度―を、制度・データ・体験と結び直す役割を担える。点在する施策を束ね、生活者主体のウェルネスを社会実装へと導くこと。それこそが、いまJウエルネスに求められている視座ではないだろうか。